期間工が任されるライン作業って何?
期間工が任されるライン作業とは、コンベアで流れてくる製品や部品に対して、タクトタイム内に自分の担当作業だけを繰り返す仕事です。

製品は工場内のコンベアで流れており、期間工は自分の作業エリア(持ち場)で作業します。
分業なので一人が担当する作業量はかなり少なく、それだけに単純です。だから誰にでも、期間工にでもやらせることができるというわけです。
ライン作業はタクトタイムという制限時間で区切られています。タクトタイムは60秒~90秒といった短い時間に設定されています。
期間工にライン作業を任せるわけは、分業によって担当する作業量を少なくしており、作業をタクトタイムで終えられるくらいに単純化しているからです。
ライン作業のタクトタイムとは
タクトタイムとは、次の製品が流れてくるまでの作業者に与えられた制限時間のことです。
期間工のライン作業は、タクトタイムで行う作業がほとんどです。というより、タクトタイムで行える程度に分業して単純化されています。
私がトヨタの期間工で配属されたラインは、トランスミッションASSY組付けラインでした。(※ASSYとは部品が組付けられたユニット一式のことです。)
このラインでは、コンベアをトランスミッションのアルミケースが流れていて、それぞれの作業者(期間工)が部品を組付けていき、最終的に一つのトランスミッションASSYが完成する流れになっています。
タクトタイムは60秒で、私が担当していたのは次の作業でした。
- クラッチディスク3枚を手に取り、アルミケースに手を突っ込んで手探りで組付ける。
- アルミケースを引っ張って移動し、液状ガスケットの塗布機械にセットしてスイッチを押す。
- 背後のラインにまわって部品をセットしてスイッチを押す。
- 隣の機械に移動して部品をセットしてスイッチを押し、元のラインにまわって戻る。
この作業を、タクトタイム60秒のなかで行います。
最初はライン作業が間に合わない
期間工として働き始めた最初のころは、作業に手間取ってタクトタイムに間に合わないことがありました。最初は慣れるまで社員がフォローしてくれます。
急ぎ足でなんとか間に合わせていた。…と言うほうが正しいかもしれません。間に合わないとラインを止めてしまうので、足を使って間に合わせていたわけです。
ライン作業を始めたばかりの人が、タクトタイムに間に合わないというのは当たり前のことです。トヨタのラインでは、社員がフォローしてくれる体制になっています。
なぜ間に合わないのか
ライン作業が間に合わないのは、「慣れていないから」という原因に尽きます。
ライン作業はタクトタイムのギリギリで設計されているのではなく、5秒くらいのマージン(余裕)が設けられています。それでも間に合わないというのは、不慣れで作業が遅いから。
私の場合は、最初の作業でよく遅れました。
- クラッチディスク3枚を手に取り、アルミケースに手を突っ込んで手探りで組付ける。
この作業は、ほぼ完成したトランスミッションのアルミケースに手を突っ込んで、見えない位置に手探りでクラッチディスクを組付けるというものです。
組付けが一発で決まることもあれば、なかなか決まらなくてゴソゴソやっているうちに時間が経過してしまうこともありました。その遅れは足で取り返すしかありませんでした。
そして1か月もするとだいたい一発で組付けられるようになって、タクトタイムに間に合うようになりました。作業に慣れれば、ぜんぜん間に合うようにラインは設計されているのです。
間に合わないとどうなるのか
担当のライン作業がタクトタイムに間に合わないと、多くの場合は、ラインが止まる前に社員が助けてくれます。
近くに社員がいない場合は、ボタンを押したり紐を引いたりしてラインを止めるしかありません。
それでも、トヨタの場合は怒られることはありません。
- 作業者(期間工)に無理させたのは会社側の責任である。
- 作業をタクトタイムに間に合うように見直す必要がある。
まずはこのように考えてくれます。ただ、他の人が同じ作業をやってタクトタイムに間に合うのであれば、自分も間に合うように努力するよう求められます。
ライン作業が間に合わないのは多くの場合は慣れていないからです。ラインで働き始めたばかりの時期なら、タクトタイムに間に合うようになるまで、社員が一緒に手伝ってくれたり見守ってくれます。
期間工がライン停止させるとどうなる?
ラインを停止させると、すぐに社員が来て状況を聞かれます。「作業量が多すぎるのか」「工程にやりづらい部分があるのか」など、社員は再発防止策を考えています。
期間工がラインを停止させる状況になることは、あまりありません。私の経験では、一番多かったのは部品の供給が間に合わなかったという、工場側の原因でした。
期間工がラインを止めると怒られる会社もあると聞きます。トヨタでは、社員が丁寧に原因を探って必ず再発防止に繋げようと真剣でした。
損害賠償を請求されるとか、そういうことはありません。
トヨタでライン停止させてしまった話
私がトヨタの期間工で働き始めたころに、自分のミスでライン停止させてしまった経験があります。
原因は、クラッチディスクの組付け不良です。
- クラッチディスク3枚を手に取り、アルミケースに手を突っ込んで手探りで組付ける。
この作業でクラッチディスクが3枚入るところを、2枚しか入っていないトランスミッションASSYが検査で引っかかりラインが自動停止しました。
社員がすぐに私のところに飛んできました。
「ああ、これか!」
社員は、ローラーコンベアの下に落ちている1枚のクラッチディスクをすぐに見つけて「検査で引っかかったもんで、ラインが止まってなあ。2枚しか入っとらんだで、何が原因かわかるか?」と言いました。
このとき、とても安心したのは、「怒っとらんで。原因を知りたいんだが。」とまったく怒る様子もなく、ただ作業ミスが起こった原因を探ろうとするトヨタの社員の丁寧な姿勢でした。
結局、「不慣れな中で作業にあせってクラッチディスクを1枚落としたことに気付かなかった。」という理由で了承してもらい、ラインは再開しました。その日は社員が私の作業を見守りながらアドバイスをしてくれました。
気が動転していて、ラインを何分止めてしまったのか…はっきり覚えていません。3分くらいだったような気がします。
ライン停止の影響は大きい
自動車製造おけるライン停止の影響は大きく、1分間の停止でも数百万円単位の損失になります。
理由は簡単に説明できます。タクトタイムが60秒の場合、ラインが1分止まれば車1台が完成しないことを意味します。車1台の平均単価300万円〜500万円の売上機会を失うことになるわけです。
もう一つ解りやすい理由があります。1つのラインには数十人、工場全体では数百人の作業者が連動しています。ライン停止による生産の遅れを取り戻すために残業すると、その全員の残業代(人件費)が発生するからです。
| 停止時間 | 現場の状況 | 影響の範囲 | 推定損失(規模感) |
|---|---|---|---|
| 数秒〜1分 | 班長が駆けつけ即復旧 | ミスした工程の遅れのみ | 数十万〜百万円(人件費や光熱費など) |
| 10分〜30分 | 設備故障や重大な欠品 | 工場内の全ラインが連動して停止 | 数千万〜数億円(生産台数減) |
| 数時間〜1日 | 部品供給網の遮断や大規模災害 | サプライヤー含む全物流が麻痺 | 数十億〜数百億円(経営利益への打撃) |
トヨタ生産方式(TPS)が「止まらないライン」を目標に掲げるのは、ライン停止の影響範囲が巨大だからです。
そうでありながらも「作業を完遂できなかったら止めろ」と教育されるのは、「不完全な製品を1台流出することで発生するリコールや信頼失墜の損失は、ラインを止める損失よりも遥かに大きい」という、品質管理への強い意識があるからです。

